日本の古い書物に登場する売春・強姦


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日本には古くから売春の文化が存在しました。売春といっても、初めのうちは金銭と引き換えに身を売ったわけではなく、いわゆる物々交換の対価として売春をしていたにすぎませんでした。

ただし、時代が進むにつれて、売春は神道における神事と結び付けられて考えられるようになりました。こうした考え方が、現代でも日本人が性産業に対して寛容な心をもつ傾向にあることの理由ではないかと考えられています。

神事と関連付けられた売春は、その後に姿を変えていき、現代のような職業的な売春へとつながっていくこととなりました。

最初期の原始的売春を除き、売春に関する出来事は、すべて当時の書物からうかがい知ることができます。

歴史書から学ぶ性風俗

かつて日本で行われていた性風俗を知るために重要となる代表的な書物が、『古事記(こじき:日本神話をまとめた日本最古の書物)』『万葉集(まんようしゅう:日本最古の和歌集)』『源氏物語(げんじものがたり:平安時代に書かれた長編物語)』などです。

『古事記』に見られる性文化

『古事記』は日本最古の書物です。ここには日本神話の原点ともいえる内容が書かれており、創世から日本誕生、それ以降の天皇時代などが脈々と書きつづられています。

その中には、当時の性的な神事の様子を書き記されたと思われる「天岩戸(あまのいわと)」という伝説があります。太陽をつかさどるアマテラスという神が、スサノオという神の横暴な態度を嫌って、岩の中に隠れてしまったというエピソードです。

太陽が隠れてしまっては困るので、神話の登場人物たちはさまざまな手段でアマテラスを岩から出そうとしました。そのうちのひとりであるアマノウズメノミコトという女神は、今でいうストリップダンスのようなことをしてアマテラスの気を引いたといいます。

結局、そのストリップが功を奏し、アマテラスは無事岩からでてきてくれたという結末で締めくくられます。

この光景は、当時実際に行われていた儀式の様子を神話の姿を借りて書かれたものだと考えられています。つまり、古代日本ではこうしたストリップも神事の中にとりこまれていたことがわかります。

ただし、日本の正史を語っていると考えられている『日本書紀』には、こうした神事の話は語られていないという点には留意すべきです。

『万葉集』と遊行女婦(うかれめ)

『万葉集』の中には、遊行女婦という名の人物が詠んだとされる和歌が数点収録されています。その和歌についての説明書きなどを見る限り、彼女たちは「愛人の旅人」であったことが推測されています。

また、かなり身分の高い官人(かんじん:今でいう官僚のようなもの)の相手をしていたことがわかっているので、高級娼婦(しょうふ:売春婦)だったと考えるのが妥当です。

ただ、少なくとも彼女たちは神事を執り行う巫女として仕事をしていたわけではなく、むしろ職業として売春をしていたとみなすのが現在の主流の見方です。

つまり、神道における売春と、遊行女婦との間には関連性はないようです。

『源氏物語』の中の売春婦

『源氏物語』は平安時代中期、紫式部(むらさきしきぶ)というが女性が著した長編物語です。物語として優れているだけではなく、当時の貴族社会がどのようなものであったかを記録している史料としても高い評価を集めています。

この中の、「澪標(みおつくし)」という話の中に、光源氏(ひかるげんじ:物語の主人公である男性)が現在の大阪にある住吉大社に参拝する場面が描かれています。

その際、神社にいた遊女(ゆうじょ:売春婦)が、光源氏の連れに大勢群がってくるという光景が文章でつづられています。

現代の感覚だと神社の中で売春をすることは、罰あたりのような気もしますが、当時の神社は売春が盛んな場所だったのです。これは、上記の「神道で売春は神事であった」という事実に由来しています。

日本の歴史の中でも、かなり古い時代の書物を取り上げましたが、だからこそ見える真実というものもあります。日本売春史を知るためには、基礎である古い時代を知ることが重要です。

日本で売春に関しての歴史史料が少ない理由

日本は古くから、多くの歴史的史料を大切に残し続けていきました。太平洋戦争の際に、貴重な史料が失われてしまったこともありますが、世界的にみれば歴史的な文献は比較的多く現存しています。

ところが、性風俗に関しての歴史的文献はかなり少ないというのが実情です。文献が少ないと、昔の日本で行われていた売春が把握しづらいというデメリットがあります。

ただし、その時代における売春に関する文献がないからといって、売春自体がなかったわけではありません。文献には残っていないだけで、確実に売春は存在しました。では一体、どうして日本には売春に関する文献が少ないのでしょうか。

売春の持つ後ろめたさ

日本は、他国に比べて売春に寛容であった歴史を持ちます。ただし、売春婦を蔑む(さげすむ:いやしいものとして見下すこと)風潮が全くなかったわけではありません。

売春の程度はどうであれ、「後ろめたさ」を伴う行為であることには変わらなかったのです。

例えば、現在でもソープランドで働いていることを家族に誇る女性は極めてまれです。多くの女性は、そうした店で働いているという素性を大っぴらに公表することはありません。なぜならば「身を売ること」には「後ろめたさ」が隠されているからです。

売春を公的に扱うことへのためらい

こうした後ろめたさは、文献でも同じことがいえます。たとえば、図書館の中に売春を取り扱った書物が入荷することはあるかもしれません。ただし、それは売春についての真面目な考察書や、社会科学的な書物であることがほとんどです。

間違っても、ソープランドやデリバリーヘルスの情報誌や新聞が公的な図書館に入荷することはありません。

ただ、長い時間が経てばそうした風俗誌も、立派な史料となります。その時代の世相や社会構造を、そうしたものからうかがい知ることができるからです。

こうしたことは、どの時代でも当てはまると考えられます。古い時代であっても、低俗であると判断された売春、風俗に関する文献が当時の公的なものとして扱われることはなかったのです。

結局、そうした文献は残されず、売春に関しての史料が少ないという現状に至ってしまったのです。

有益な史料が少ない理由

そうはいっても、売春に関する文献が全く残されていなかったら、研究をすることはできません。そのため研究対象となる文献は、多少ではありますが現存しています。

ただ、有益な情報が記載されている史料はあまり多くはありません。なぜならば、売春について記した文献でも、著者は現場で活動した売春婦ではなく、位の高い人物であることがほとんどだからです。

実際に売春をするような地位の女性の識字率はかなり低く、そうした女性が自分の売春体験を文献に残しておくことは不可能でした。

例えば、遊女(ゆうじょ:昔の売春婦)が生まれ始めた平安時代、菅原孝標女(すがわら の たかすえ の むすめ)という人物は『更級日記(さらしなにっき)』という回想録を著しました。

その中の、「遊女記」という話の中には、当時売春街を形成していた、難波(なんば:現在の大阪あたり)のある街についての記載があります。

ただし、その中に書かれているものは、「街中で遊女が嬌声(きょうせい:色っぽい声)を上げている」などの表面的な光景のみでした。

もちろん、そうした表現しかないのであれば、当時の遊女の実情を詳しく知ることはできません。よって、この文献は当時の街中を知るには有益だとしても、売春に関する研究に用いるには不適当なのです。

売春の研究は、日本古来の文化を調べる上でとても大切なポイントです。そのため、どのようにこの史料の少なさを補って研究をしていくかが重要となります。

日本史初期における強姦観

日本の性道徳は、時代とともに大きく変わりました。この中で、昔は強姦も容認されている行為のひとつでした。初めに断っておきますが、強姦というものは犯してはならない罪です。ただし、それは現在の価値観に基づいた罪であるため、絶対的な罪であるといいきれないのも事実です。

また、強姦と売春には密接な関係があります。例えば、かつて街中で行われていた「辻捕り(つじとり)」という名の文化があり、売春によって強姦に対しての意識が変化していきました。

平安時代のナンパ:辻捕り

ナンパというと、現代の若者の生んだ比較的新しい文化のような気がしてしまいます。しかし、平安時代の街中ではすでにナンパが行われていました。

そのナンパのことを当時、「辻捕り」といいました。街行く女性に男性が声をかけて口説き落とすという、現代のナンパと全く同じ行為を指します。

ただ、現代のナンパと異なるのは、頻繁に「強姦が行われた」という点です。現在でも、ナンパから強姦に至るケースはあります。もちろん、それは許すことのできないことです。

ところが、平安時代には、特に強姦は咎められる行為ではありませんでした。当然、当時の女性も強姦をされて多少は不快な気分になったことでしょう。ただ、強姦は日常でありふれた行為であったため、彼女たちにとってそこまで騒ぎ立てるような事件でもなかったのです。

女性のひとり旅と強姦

平安時代やそれ以降、女性が各地をひとりで旅することも珍しいことではありませんでした。そうした事実を聞くと、「女ひとりで旅をするなんて危険ではなかったのだろうか」と現代人は考えてしまいがちです。

ただ、彼女たちは初めから強姦くらいであれば旅にはつきものと考えていました。そのため、殺人クラスの騒動でないと、彼女たちは身に危険を感じることはなかったのです。

同じく平安時代中期に著された『源氏物語』には、かなりの頻度で強姦が行われているシーンが登場します。これも、当時の価値観がうかがい知れる貴重な史料です。

強姦と売春は相反するもの

売春も強姦も、男性の側からすれば「女性とセックスをする」という意味ではほとんど違いがありません。感覚的には、金銭を払う義務があるかどうかの違いだけです。

しかし、女性の側からすれば両者の意味合いは大きく異なります。強姦が仕方ない運命であるのに対し、売春は自身から能動的に行う行為だからです。

つまり、男性が強姦をしたくてもできない社会が生まれることによって、強姦はなくなり、むしろ売春の文化が優勢になってくるのです。

交通の要衝で栄えた売春

平安時代には、交通が発達し始めていました。そうしたことから、大きな川の河口付近は、海を渡るための船が行き交う交通の要衝となったのです。

こうしたところに赴く男性の多くは、地元に妻子を残しており、行きずりの女性を強姦するよりも、売春をする方が便利であると考えるようになります。

1晩限りの滞在であることを考えると、素人女性を捕まえて無理に強姦する労力は割に合わないからです。

そうした背景から、交通の要衝には売春を生業とする女性が増えていきました。そして、こうした女性は、次第に遊女(ゆうじょ)と呼ばれるようになったのです。

売春により強姦はすたれた

売春という概念が一般的になると、強姦は次第に行われなくなりました。一方で、売春の仕事に就く女性の割合は時代とともに増えていったとされています。

売春の盛んな地域は宿場町などの交通の要衝でした。ただ室町時代になると、京の街中にも遊女が出現するようになりました。これは遊女という存在が、ようやく一般的な存在として受け入れられたことの証明です。

強姦に関する認識は、今と昔で大きく異なります。また平安以降、強姦文化がすたれたといっても、完全になくなったわけではありません。性の倫理が今のようになるまでには、とても長い時間がかかったのです。


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