東京の歓楽街として名高いのが、新宿・歌舞伎町です。客引きの数も多く、日本最大級の賑わいを見せています。
ただ、それも今は昔と言わんばかりに、性風俗は衰退の一途をたどっています。石原慎太郎が東京都知事に就任していた2004年に、歌舞伎町の風俗店を一斉摘発するという出来事がありました。いわゆる「歌舞伎町浄化作戦」です。これを境に、歌舞伎町で隆盛を誇っていた多くの風俗店が撤退し、現在に至ります。
一見すると、町中の風俗店の多くが姿を消しましたが、その代わりに増えていったのがデリヘル(デリバリーヘルス)です。
無店舗経営なため、摘発から逃れやすいというのが経営者にとってうまみでした。それに加え、町の景観に影響を及ぼしにくいという観点から、行政の側も大目に見ているため、これも急増の一因となりました。
そんなデリヘルの成り立ちや、現在どのような状況にあるのかを、もう少し具体的に見ていきましょう。
デリヘルの成り立ち
デリバリーヘルスの名からもわかる通り、嬢が客のもとにデリバリー(派遣)され、その派遣先でサービスを行う風俗の形態です。嬢が赴く先はほとんどの場合、デリヘル事務所の近隣にあるホテルですが、自宅などに呼ぶことも可能です。
デリヘルの起源については、詳しくわかっていません。しかし、デリヘル(無店舗型第一号)が合法的に営業可能となったのは、「風俗営業適正化法(風営法)」が改正された1999年のことでした。こうして、デリヘルは風俗界で多大な注目を集めるようになったのです。
ところが、先ほども述べた通り、時代とともに風俗界自体への風当たりは強くなりました。店舗型風俗は新規に営業届を出したとしても、却下されることが多くなり、たとえ受理されたとしても激化する摘発に抗うのは難しいことでした。
一方でデリヘルは、摘発の恐れも少ないため、どんどんと増加していきました。届け出もほとんどの場合受理され、2010年代には平均して年間1000件以上も新規にデリヘルが開店し続けたのです。
こうしてデリヘルは、店舗数でいえば風俗界のトップにまで上り詰めました。その数、2014年には1万7000店以上です。某大手コンビニの店舗数を上回るほどのデリヘルが、日本には存在しています。
デリヘルの現在
店舗の設備に全く費用をかける必要がないということも、デリヘル市場拡大の一因となりました。ただ、店舗型風俗で見られる、「店舗設備の充実」で勝負をすることができないというデメリットも確かに存在しました。つまり、デリヘルは嬢の身ひとつで勝負する形態といえます。
ところが、1万7000店もの同業がいるとなると、他のデリヘルとの差別化を行う必要が発生しました。店舗型のような大がかりなサービス等を売りにできないデリヘルは、種類を細分化するという手法で差別化を図ったのです。
こうして、デリヘルにはさまざまな種類が生まれました。基本的な女の子の充実を売りにしたデリヘルがあれば、熟女ばかりを集めたデリヘルもあります。
また、一般的なデリヘルでは、本番行為に該当する行為は素股(男性のペニスと女性の性器とを擦り合わせる疑似性行為)で代用していることがほとんどです。
ただ、その部分でアナルセックスも可とした、サービス内容で差別化を試みるデリヘルも台頭していきました。中にはコスプレ、ぽっちゃり、スカトロ、SMなどニッチな趣味に対応したデリヘルも存在します。
こうした種類の細分化の裏には、先ほど述べた同業との争いがあります。ただ、1万7000店という数はあまりにも多すぎて、デリヘルはほとんど飽和状態です。
いくら差別化を図ったとはいえ、需要が追い付かないならば意味がありません。一説には、実際に営業しているのは届け出されたすべての店の半分以下である、8000店舗ほどではないかともささやかれています。
ただ、客の立場からすればこれほどいい話はありません。業界は完全な買い手市場となっているわけで、客はより好みをする余裕があるからです。
デリヘルの事務所はどのようなところなのか
デリヘルにはこうした現状があるわけなのですが、そもそもデリヘルはどのように事務所運営されているのでしょうか。
男性客がデリヘル事務所に訪れることはないため、どのような仕組みでデリヘルが運営されているのかご存知ない方が多いと思います。そこで、「デリヘル事務所がどのようなところなのか」を紹介します。
デリヘルの事務所は大きく分けて、住宅タイプ・オフィスタイプ・事務所なし、という3つのタイプに分かれます。
「住宅タイプ」の事務所
「住宅タイプ」の事務所は、マンションの1室に事務所が設けられています。部屋にはパソコンと電話が置かれたデスクが1~3台ほどあり、男性客からの予約に対応しています。
また、デスクのほかに冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなどが置かれている事務所が多いです。デリヘル事務所によってはこたつ机が置かれており、そこにデリヘル嬢が待機していることもあります。
比較的、アットホームな雰囲気が感じられるのがこのタイプの事務所の特徴です。お客様のところに向かう前の女性は部屋で化粧を整えたり、プレイで使用するピンクローターの手入れをしたりしています。さらに、布団も用意されており、夜間の予約などで家に帰宅できなくなったデリヘル嬢が宿泊できるようになっている事務所もあります。
デリヘル事務所と知らない方が入ったら、普通に誰かが生活をしているような生活感が感じられる事務所が多いです。
「オフィスタイプ」の事務所
「オフィスタイプ」の事務所は、オフィスビルの一室で営業されていることが多いです。事務所のスペースを大きく2つのスペースに分けており、パソコンが置かれたデスクが並んでいる「事務所スペース」と、デリヘル嬢の「待機スペース」があります。
オフィスタイプのデリヘル事務所は住宅タイプよりも顧客管理をしっかりしている傾向にあります。お客様からの電話があると、以前に利用したことがある方かどうかをすぐに確認できるようになっています。
そして、「指名した女性」や「デリバリーした場所」、「待ち合わせ場所」などの詳細な利用履歴も情報として保存されています。
こうした情報を保存しておくことで、それぞれのお客様の好みに応じたサービスの提供に役立てているのです。
また、より大きなグループ会社では、自社ビルを所有しているところもあります。お洒落な雰囲気のビルで、パソコンが置かれたデスクがずらりと並んでおり、多くの男性客からの予約に応えられる体制を整えています。
デリヘル嬢が休憩や待ち時間に利用する「待機室」も非常に整った環境となっています。チリひとつなくきれいに掃除された床に、熱帯魚が泳ぐ水槽、無料のドリンクコーナーまで設置されており、女性が快適な環境で仕事をすることができます。
このような整った環境の自社ビルを持つグループ会社は少ないですが、ビルの一室を事務所にして営業しているデリヘル店は比較的多いです。
事務所を持たないデリヘルサービスもある
特殊な例として、事務所を持たないデリヘルサービスもあります。以前は固定電話の番号がないとデリヘルが開業しにくかったのに対し、携帯電話が普及したことで、携帯電話の番号を掲載して予約を受け付ける店が増えました。
また、スポーツ新聞に掲載されるデリヘルサービスも、新聞社が自主規制によって「携帯番号が連絡先のデリヘル店」は掲載していませんでした。
しかし、規制緩和が行われ、携帯番号で予約を受け付けているサービスも掲載されるようになりました。
現在デリヘルは、携帯電話ひとつあれば開業できるサービスになっています。予約を受け付ける携帯電話を用意したら、経営者、もしくは受付担当者がお客様の予約に対応します。
そして、デリヘル嬢は自宅に待機しておいてもらい、指名が入ったらお客様の自宅や指定のホテルに向かう、という流れでサービスが提供されます。
このようにデリヘルの事務所は3つのタイプに分かれます。普段はあまり気が付かないかもしれませんが、雑学としてこのような体制で運営されていることを知っておくのも良いでしょう。
デリヘルは異なる店に同じ女性が在籍していることがある
デリヘルを利用するとき、他にも認識しておくべきことがあります。それは、異なる店に同じ女性が在籍していることがあるということです。一般的な店舗を構えた風俗店ではこのようなことはなく、風俗嬢は基本的にひとつの店にしか在籍していません。
一方でデリヘルは店舗を持たないため、このようなことが可能になっています。
デリヘルはもともと1つの店を細分化することがある
デリヘルに同じ女性が複数の店に在籍する仕組みは、「1つの店を細分化している」ことによります。デリヘル店は店によって規模が異なります。たくさんのデリヘル嬢が在籍している店もあれば、小規模で運営されている店もあります。
たくさんのデリヘル嬢が在籍している店の場合、ひとつの店として運営するよりも、細分化して「専門店」として展開したほう利益につながる場合が多いです。
美人女性のグループや巨乳女性のグループ、ぽっちゃり女性のグループなど、専門店化することで、男性客が自分の好みに合った店を選びやすくなるのです。
また、例えば女性によっては「美人で巨乳」という人がいます。こうした女性は美人グループのデリヘル店にも、巨乳グループのデリヘル店にも在籍することになります。これが異なるデリヘル店に同じ女性が在籍する仕組みです。
デリヘル店の届出の仕組み
ひとつの店を複数の店に分けるのは、デリヘルだからできることです。
デリヘルを開業する際には、都道府県の公安委員会への届出が必要です。届出の書類の欄は、複数の店名を記載できるようになっています。ここに複数の店を記入しておくことで、それぞれを別の店として運営できるようになるのです。
ひとつのデリヘル店が複数に分けられていることの確認方法として、「公安委員会に届出があるデリヘルの件数と、風俗ポータルサイトなどに掲載されているデリヘル店の件数の違いに注目する」ことが挙げられます。
これらのデリヘル店の届出数の総数を確認してみると、届出の件数よりポータルサイトに掲載されている店の数が上回っています。このことから、ひとつのデリヘル店が複数の店名を使い分けていることが分かります。
デリヘル店は不正にひとつの店を複数の店に分けているのではなく、ルールに則って、あくまでもビジネス上の戦略として店舗名を使い分けているのです。
また、デリヘル店によっては「細分化したものの在籍する女性が少なくなりすぎて上手くいかず、結局もとの1つの店舗に戻した」という店もあります。単純に「細分化して専門店にすれば良い」というわけではなく、きちんとした戦略のもとで店を分けることが大切なのです。
デリヘル店によっては「二重在籍」を行っていることがある
さらに、デリヘル店によっては「二重在籍」を行っている店があります。これは、「ひとつの店を、名前だけ変えて別の店舗として運営する」という手法です。つまり、「店舗名は異なるが、在籍している女性はまったく同じ」という店ができあがります。
これを行う理由は、「風俗ポータルサイト上で別の店として掲載するため」です。ひとつの店舗をポータルサイトに掲載するよりも、2店舗を掲載するほうが利用者の増加が期待できるのです。
ただ、男性客が在籍する女性を確認することで、2つの店が同じであることに気が付く場合があります。これを避けるために、2つの店でホームページに掲載されている女性の写真の加工を変えたり、女性の源氏名を変えたりすることで、在籍している女性が同一人物だと分かりにくくしている場合もあります。
二重在籍には利用者の増加というメリットだけでなく、デメリットもあります。2店舗分の広告費がかかるため、経費が大きくなるのです。
広告費を倍にしても、お客様が倍になるとは限らないため、上手くいかない場合があります。
また、デリヘル嬢が「違うように見えても実は店が同じ」ということを、男性客とのプレイ中に話してしまうことがあります。こうなると悪い噂がすぐに口コミで広がってしまう可能性があるため、リスクのある戦略といえます。
このように、デリヘルは店舗を持たないことを利用して、さまざまな戦略で経営されているのです。デリヘル店を風俗ポータルサイトで探す際に、似た女性が在籍している店を見つけたときは、上記の仕組みを思い出すと良いでしょう。